ご依頼の経緯や課題、現地調査について

インタビュアー：今回は宿楽さんで手がけた、「ビジネスホテルの事業再建例」について、宿楽の松本社長にインタビュー形式で伺っていこうと思います。どうぞよろしくお願いいたします！

松本：宜しくお願い致します。

インタビュアー：今回のインタビューテーマである、「ビジネスホテルの事業再生」に関する事例について、まず概要をお聞かせ願いたいです。

松本：今回お話しさせていただくのは、神奈川県の本厚木というところにある客室数180ほどのビジネスホテルの事例です。

インタビュアー：180室ですか。ご依頼の経緯はどういったものでしたか？

松本：はい。ご依頼いただいた経緯についてお話しすると、銀行経由などではなく、これはこちらのホテルの社長から直接宿楽へ相談をいただきました。

インタビュアー：オーナー様はどのようなお悩みを抱えていたのでしょうか？

松本：ちょうど新型のウイルスが流行しインバウンド業界がダメージを受けた時期でして、キャッシュフローが当時想定していた計算と大きく外れ業績が悪化し、これはなんとかしなければと、宿楽にご相談いただいたといった経緯でした。

インタビュアー：事業再生は銀行や支援団体からのご相談が多いのかと思っていましたが、直接のご依頼も受け付けているんですね。

松本：はい、お請けしております。

リーマンショックや震災等、数十年に1度ほどのペースでこういった「予測できない外的要因」での不況は発生しますが、

やはり旅館・ホテル業は設備投資等に多額の融資を受けているケースも多いので、

そういった急なインパクトに対しての対応というのは、なかなか難しいじゃないですか。

インタビュアー：そうですね…。

松本：今回のご相談も、そういった外的要因の渦中でのご相談でした。

インタビュアー：実際にどのようなコンサルティング・施策を行い、事業再生を行なったのですか？

松本：まずは現地に伺い、何か改善点や問題点がないか、洗い出しを行いました。

インタビュアー：社長自ら現地に赴くこともあるのですね。

松本：宿楽では「現場力」をとても大切にしていますし、数値上のデータだけでは見えないこともありますからね。

インタビュアー：実際に現地に赴き、まずどのような活動をされたのですか？

松本：まずは競合や立地を確認したうえで、次の日は一日中受付周りでお客様の層を見ていました。

インタビュアー：どのような事が見て取れましたか？

松本：前提として、今回ご依頼いただいたビジネスホテルは、駅から徒歩8分くらいの距離にあり、駅から当該ホテルまでの間に、10件ほどは競合ホテルがあるんですよ。

インタビュアー：それはレッドオーシャン（競合過多）な市場ですね。

松本：そうなんです。やっぱり駅から近い方が、いわゆるキャリーバックを引いて都会で駅から駅へと移動するようなビジネスパーソンは集まるので、そこで競合に比べ駅から距離があるというのは弱みでした。

反面、このホテルには強みも、別のターゲット層もある事に気がつきました。

インタビュアー：具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか？

松本：このホテルにはまず競合のホテルにはない、立地の良い安く広い駐車場が併設されていた事、部屋や建屋は綺麗なホテルだった事、また、一日中観察してみていると、工事関係の職の方々、作業服を着てらっしゃる方々がたくさん泊まりにきている事に気がつきました。

インタビュアー：意外ですね。徒歩8分とはいえ、駅から近いビジネスホテルといえば、前述のTHEビジネスパーソン的な方々が集まっているのかと思いました。

松本：そうなんです。実はオーナーさんも、そういったビジネスパーソン的な文化の方々にターゲットを絞っており、集客が上手くいっていなかったんですね。

駅からのタクシー代を負担するプランなども打ち出してビジネスパーソンをメインターゲットにしていたんですが、ここに改善の余地があると考えました。

現地の方々にヒアリングしてみると、大手電気会社の工場が近くにあることやそのメンテナンス業者、整備業者が多く足を運ぶ土地だということでした。

大きくて安い駐車場も工事関係の方のニーズに合っていたのか、夜駐車場を見てみると、作業車やライトバン、ワンボックスカーが多く停まっていました。

インタビュアー：現場を見てみてわかることは多いんですね。

松本：そうなんです。自分のビジネスやターゲット層を、正確に俯瞰で見るというのは、意外とどこの社長様でも難しいものです。

我々のような外部のオブザーバーこそ、現場力が大切だと考えています。

宿楽が行った施策と改善案

インタビュアー：具体的に行った施策を掘り下げて伺ってもよろしいでしょうか？

松本：まずレストランがホテル内にあったのですが外部委託で場所を貸していたような状態でした。

工場作業の方々は、体力仕事です。しかしこのレストランは夜のみの稼働でした。

朝食は近くのフランチャイズ飲食店の食事券を渡していたのですが、雨の日などはお客様からすると面倒臭いじゃないですか。

朝食をしっかりホテルで食べたいニーズは必ずあると思いました。

インタビュアー：サービスをしっかりターゲット層に合わせていったということですね。

松本：そうなんです。まずは朝レストランを稼働できないか交渉した結果、お店が変わるという事になりました。

これまで入っていた外部の飲食店さんは撤退する事になり、

その代わりホテル側がレストランを運営・朝食を提供するといった運びとなりました。

インタビュアー：新しくレストランを作り直すとなると、お金がかかるのではないですか？

松本：おっしゃる通りで、ホテルのオーナーさんが地元の内装業者に見積もりを依頼したところ三千万という数字が出てきたので、これは高いと、私のネットワークを駆使し静岡の内装業者様に一千万円でやってもらいました。

インタビュアー：いつの時代も人脈や相場感等は大切なんですね。勉強になります。その後の結果は順調でしたか？

松本：はい。もちろん駅からのタクシー代を提供するプランの取りやめなど、ターゲットに合わせたさまざまな施策改善の影響もありますが、

すぐに内装費用の元は取れました。

朝食のメニュー作りにも細部まで立ち合わせていただき、レストランのブランディングやコンセプトにも携わらせていただきましたね。

最終的にはレストランで夜宴会をしたいというニーズがお客様からあがってきたので、夜限定で貸切プランなども提供し、飲食店の方も大盛況になりました。

インタビュアー：徹底ぶりがコンサルタントの方って感じがします。他にどのような施策を行われたのですか？

松本：はい。次に行ったのが、集客の改善です。

これは正直、1ヶ月くらい説得に時間がかかりましたね。

インタビュアー：コンサルタントの提案とはいえ、改革にはやはり説得や意見の相違が発生しますよね。どのようなケースだったのですか？

松本：まず連泊プランを作りました。これはターゲットに合わせて考えると当然必要なプランです。

そしてWEBからのマーケティングを加速させるために、楽天トラベルなどで5,800円ほどだった素泊まりプランを、

一時的に4,800円くらいにできないかと交渉しましたが、これがなかなか首を縦に振ってもらえませんでした。

最終的には私の提案を受け入れてくれましたが、

インタビュアー：値下げにはどのような意図があったのでしょう？

松本：いわゆる予約サイトのようなサイトは、予約件数でサイト内の検索順位が大きく変わります。

だんだんとプランや食事をターゲットに合わせてはいけたので、あとはどう人を集めるかが鍵だと思いました。

そこで予約サイトの検索順位を上げる事は、とても大事な指標だと感じたんです。

インタビュアー：集客を加速させるために、「一時的に」4,800円にしたという事ですね。

松本：そうなんです。

当時素泊まり4,800円というのは、あの地域であのレベルのビジネスホテルの中では、一番安いプランでしたので、

予約数がかなり向上しました。

無事施策後、予約サイト内での検索順位が向上し、利益を多く得られる事ができました。

その年の営業利益は＋1,800万を記録し、

その利益で設備やアメニティ・サービス・内装を改善し、今は6,000円ほどのプランで当時以上の集客ができています。

インタビュアー：未来のための初期投資のような値下げだったんですね。

松本：そうなんです。

しかしオーナーさんからすると、値下げにはなかなか抵抗があることは予想していたので、

粘り強く、1ヶ月交渉させていただき、上記の施策が実現しました。

インタビュアー：私なんて相手の顔色を伺ってビジネスしちゃいますけど、相手のためを思ってこその交渉だったんですね。見習いたいです。

松本：結果、ご相談された時（外的要因で売上が下がった時）も含め、開業されてから今までの期間で、過去最高利益を記録しました。

インタビュアー：経営再建・赤字回避どころか、過去最高利益を記録するというのが、この事例のすごいところだなと思いました。

松本：私もそのときの帳簿を見た時、とても嬉しかったのを覚えています。事業再生コンサルティングを行う上で、なによりやりがいを感じる瞬間でしたね。

インタビュアー：インタビュー記事ですので、あまり良いところばかり私が言うのもあれですが、松本社長の熱い思いと、事業再生にかける熱意が伝わり、私も大変勉強になるインタビューでした。ありがとうございました。

松本：こちらのほうこそ、インタビューありがとうございました。